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新潟地方裁判所 昭和40年(行ウ)4号 判決 1966年6月02日

原告 株式会社外山商店

被告 新潟税務署長

訴訟代理人 横山茂晴 外四名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

本件事業年度分の法人税申告についての原告の確定申告、これに対する被告の更正処分(本件処分)、本件処分に対する原告の審査請求及び関東信越国税局長の審査決定の内容及び経緯に関する請求原因一の事実、原告が昭和三七年七月三〇日原告の代表取締役である外山に対し特別功労金の名義で本件一五〇万円を支給したこと、被告が本件処分において、本件一五〇万円を役員賞与であると認定し益金に算入して原告の所得金額を算出し、審査決定も本件処分のこの判断を維持していることは、当事者間に争いがない。

原告は所得計算上本件一五〇万円を損金に算入すべきである旨主張するので、この点について判断する。法人税法施行規則に、よれば、法人が役員に対して支給する給与は報酬、賞与及び退職給与金の三種にわかれ、このうち、賞与は損金に算入されないが(同規則一〇条の四本文)、報酬及び退職給与金は損金に算入される(もつとも、報酬であつても不相当に高額なものは、その不相当と認められる部分については例外として損金に算入されない《同規則一〇条の三第一項》)。そして、本件一五〇万円が退職給与金でないことは明らかであるから、これを損金又は益金のいずれに算入すべきかを決める第一次的基準は、本件一五〇万円を報酬又は賞与のいずれと認むべきかに求めることになるが、同規則によれば、その支給名義いかんにかかわらず賞与とは「臨時的に支給される給与で退職給与金以外のもの」をいい(一〇条の三第四項)、報酬とは「給与であつて賞与及び退職給与金以外のもの」(同第三項)をいうのであるから、法人税法上両者はその支給が臨時的であるか否かによつて区別されることになる。

<証拠省略>によれば、原告においては、株主総会で定められた役員報酬額(年額)の範囲内で取締役会が各役員の報酬年額を定めその額内でこれを支給していること、本件事業年度において株主総会が定めた原告の役員報酬額は八〇〇万円で、代表取締役である外山に対する報酬は、取締役会でその限度額を年額四〇〇万円、定期の支給月額を昭和三六年八月から昭和三七年三月まで二五万円、同年四月から同年七月まで二六万円と定められたこと、原告はこれに基づき外山に対し月額による定期の報酬を支給したこと(但しその支給額合計が三〇四万三、〇〇〇円であつたことは当事者間に争いがない。)、原告が東京地方裁判所に対し関東信越国税局長を被告として、匿名預金に関する法人税の過少申告についての処分を争つて提起した行政訴訟において、外山が原告代表者として訴訟遂行にあたり、昭和三四年一二月九日から昭和三六年三月二七日まで一二回にわたり口頭弁論に出頭し、その結果話合が成立し、原告が訴を取下げて同局から約一、三〇〇万円の過納分の還付を受けることができたこと、そこで原告は、外山の訴訟遂行の労をねぎらうため、取締役会の議を経て本件事業年度末である昭和三七年七月三〇日前記のような定期的給与とは別に前記のとおり同人に対し特に特別功労金の名義で本件一五〇万円を支給したものであることが認められる。以上の認定に反する証拠はない。

以上の事実によれば、本件一五〇万円は外山の訴訟遂行の労に対し特に本件事業年度末に支給されたもので、定期に支給する給与でないことは明らかであるから、法人税法施行規則一〇条の三第四項にいう「臨時的に支給される給与」に該るものということができる。原告はこの点に関し株主総会で定められた役員報酬限度額の範囲内で支給された給与は臨時的支給でない旨主張する。しかし、たとい役員報酬限度額の範囲内であつても、当該給与が定期に支給される給与と別途に支給されれば、臨時的な支給と解すべきであるから、原告の主張は採用できない。

更に、本件一五〇万円の性格について検討すると、株式会社の代表取締役は、対外的には営業に関する一切の裁判上、裁判外の行為をなし得る権限を有し(商法二六一条三項、七八条)、対内的には善良なる管理者の注意をもつて委任事務の処理、すなわち会社の業務の執行にあたる義務を負い(同法二五四条三項)、しかも、会社の利益のために忠実にその職務を遂行しなければならないから(同法第二五四条の二)、会社の提起した訴訟につき-特に本件のように訴訟代理人を選任しないような場合にあつては-代表取締役がその遂行にあたることは当然の職責であり、その結果会社に利益がもたらされたからといつて、会社が代表取締役に対し、その対価として、定期あるいは通常の報酬の外に、特に別途の報酬を支払うべき義務を負うものではない。かかる観点に立てば、事業年度末に前記のような趣旨の下に支給された本件一五〇万円は実質上利益処分であり、損金に算入せらるべき業務執行上の必要な対価と認めることはできない(原告代表者本人尋問の結果によれば、外山は出廷のため上京する際には、原告から所定の旅費、日当の支給を受けていたことが認められるのである)。原告は右のように解すると、訴訟事件処理を弁護士に依頼した場合、弁護士報酬が損金として扱われることと対比して権衡を失する旨を主張する。しかし、かかる場合損金算入が認められるのは、弁護士が会社に対し報酬請求権を有し会社がこれに報酬を支払うことは必要経費となるからであつて、訴訟事件処理につき本来報酬請求権を有しない代表取締役の場合とを同一に論ずることはできない。

このように、本件一五〇万円はその支給形態から見ても、また、実質的性格から見ても賞与と認めるのが相当であるから、原告の所得金額の算出にあたつては、益金に算入すべきものと解するのが相当である。従つて、本件処分に原告主張のような違法は認められない。

よつて、原告の請求はその余の点を判断するまでもなく理由がないことになるから、これを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 吉井省已 松野嘉貞 八丹義人)

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